医療機関における外部環境を分析する
医療機関における課題把握と解決策の検討・提案、アクションへの移行に向けては、次のようなステップで取り組むのがおすすめです。このページでは、STEP1について取り上げていきます。
STEP
「外部環境」を把握する
1-1.外部環境は、PEST分析を活用する
外部環境の分析を行う場合は、ビジネスでよく用いられる有名なフレームワークの1つ「PEST分析」を行うと整理が容易です。PEST分析とは、マーケティング分野における第一人者であるフィリップ・コトラー氏が考案したフレームワークで、PESTは4つの頭文字をとった造語です。
それぞれ、PはPolitcs(政治的要因)、EはEconomy(経済的要因)、SはSociety(社会的要因)、TはTechnology(技術的要因)を現しています。
P:Politics(政治的要因)
E:Economy(経済的要因)
S:Society(社会的要因)
T:Technology(技術的要因)
1-2.Politicsは、政治・政策・行政に関連した要因
医療機関を取り巻く外部環境として、Politicsにはどんなものがあるでしょうか。
日本においては、医療は国民皆保険制度のもと、全ての国民が平等かつリーズナブルな値段で医療を受けられる仕組みとなっています。一方で、医療はある一定レベル以上の質の確保が必要であり、法制度による規制がかけられています。医療法や医師法、その他医療関連職種の法律にはじまり、健康保険制度に関連した法律や医療事故発生時に関係する民法、刑法などもその1つです。このような意味でも、政治の現場で議論される新法の成立や既存の法律の改正などは、重要な外部要因の1つと言えます。加えて、医療サービスに対する対価として支払われる診療報酬は、国が定める公的な報酬の仕組みであり、厚生労働省が所管する会議にて検討が行われ、2年に1度改定が行われます。地方自治体においては、医療機関向けの補助金や地域の医療計画の策定などといった施策も行われます。
このように、医療機関は外部環境としてのPoliticsに、大きな影響を受けています。
1-3.Economyは、景気・経済・産業に関連した要因
医療機関を取り巻く外部環境として、Economyにはどんなものがあるでしょうか。
医療はその多くが公的保険でまかなわれており、消費者である患者個人の負担は大きくありません。また、生死にかかわる病気などの場合に、個人の経済的な理由で医療が受けられないことを回避するための高額療養費制度なども整備がされております。このような視点から、医療の個人消費としては社会全体の景気や経済状況による大きな変化は少ないかもしれません。一方で、大規模な感染症の流行や戦争など、国民の多くが影響を受ける事象が発生した場合には、個人消費としても影響を受けると考えられます。また、経済状況の変化による物価の上昇など、建築費や人件費の高騰、土地取得費の高騰、また銀行からの借入金利の増加などにより、医療機関経営への影響は少なくありません。加えて、国を挙げてヘルスケア産業を推し進めるといった環境がある場合には、医療機関においても何かしらの影響があるでしょう。
このように、医療機関は外部環境としてのEconomyに、大きな影響を受けています。
1-4.Societyは、人口動態・流行・世論・教育・文化に関連した要因
医療機関を取り巻く外部環境として、Societyにはどんなものがあるでしょうか。
2021年現在の日本は、超高齢社会であり、かつ少子化という社会課題を抱えています。医療機関を受診する患者の多くは高齢者である事が分かっているため、高齢社会においては医療への需要が大きくなると考えられます。一方で、少子化という波により、今後は人口減少に拍車がかかり、医療費の財源に影響が及ぶことも想像されます。世の中における流行という面では、対面診療がこれまで一般的であったものが、デジタルネイティブな世代が増えることで、その常識が大きく変わる可能性も少なくありません。小学校・中学校における教育の仕組みとして、社会保障や税の考え方、性教育、がん教育などが推進されることで、医療に対する国民の考え方や文化が変わる可能性もあります。
このように、医療機関は外部環境としてのSocietyに、大きな影響を受けています。
1-5.Technologyは、技術に関連した要因
医療機関を取り巻く外部環境として、Technologyにはどんなものがあるでしょうか。
パソコンの登場により情報処理の速度が革新的に変化し、スマートフォンの登場により、情報をいつでも調べることができる社会が確立しました。医療機関においても、これまで紙カルテだったものが電子カルテとなり、院内での情報伝達手段としてスマートフォンアプリを用いてコミュニケーションをはかる医療機関も少なくありません。昨今では、AIの研究やロボットの開発も進められ、人間に代わる何かが医療現場で働く未来も訪れるかもしれません。
このように、医療機関は外部環境としてのTechnologyに、大きな影響を受けています。
1-6.PESTの視点で、自院に影響を与える要因は何か
P・E・S・Tの視点で抽出された環境要因については、自身の施設に影響を与える要因か否かを検討し、影響を与える要因について、表などに整理します。
なお、要因については、恣意的な理解や解釈ではなく、事実をピックアップすることがポイントです。
1-7.抽出された要因は、機会か、それとも脅威か
P・E・S・Tの視点で抽出された環境要因については、自院にとってポジティブな事柄である「機会」とネガティブな事柄である「脅威」に分けて整理をします。
なお、機会と脅威に分けて整理をすることで、各要因の意味を知り、今後どのような課題に繋がるかがより検討しやすくなります。これは、組織における経営戦略を考える際に行われるSWOT分析に繋がります。(SWOT分析:外部環境・内部環境をもとに、強み・弱み・機会・脅威を分析し、経営戦略を検討する手法。)
1-8.抽出された要因は、短期的なものか、それとも中長期的なものか
P・E・S・Tの視点で抽出された環境要因については、短期的なものなのか、中長期的なものなのかに分けて整理をします。
なお、時間的な尺度加えることで、それらの要因に対して、どのくらいの時間的余裕があるのか、すぐに対応すべき事項なのかなど、経営戦略を考える上で、または課題解決に向けての判断材料に繋がります。
1-9.まとめ
このようにして、自身の医療機関を取り巻く外部環境を分析していきます。
分析を行う際には、1人で行わず、可能な限り何人かで行うことで、より多くの意見を出すことが可能です。また、年1回など定期的に外部環境を見直す機会を作りことをおすすめします。
外部環境分析を行う際のおすすめポイント
①1チーム数名でグループワーク形式で行う
②定期的に組織の行事として行う
③ホワイトボードや付箋紙などを活用してメンバー参加型で行う
④頭の中の知識や記憶だけでなく、ウェブ調査などでリアルタイムな情報を収集する
⑤成果物は、他のメンバーとも共有する発表の場を設けて、更にブラッシュアップする
外部環境・内部環境を分析するグループワークなど、組織やチームとしてサポートをご用命の方は、お問い合わせページよりご連絡ください。
1-10.外部分析に関するブログ一覧
外部環境に関する情報を配信しております。外部環境を分析する際はご参考ください。
STEP
戦略・戦術を考える
内部環境と外部環境の分析結果をもとに導き出された課題に対して、自院の戦略や戦術を考えます。
外部環境・内部環境を分析するグループワークなど、サポートのご用命は、お問い合わせページよりご連絡ください。
この記事を書いた人
SOKEN.webの管理者。臨床検査技師免許取得後、製薬関連企業に就職。その後、海外留学、大学院進学、コンサルティングファーム、大手医療法人の経営戦略・政策責任者を経て、医療経営と医療政策を軸にしたシンクタンクを起業、現在に至る。慶應MHM、早稲田MPMホルダー。専門は医療経営、医療政策、医療ITなど。大学では非常勤講師として医療リスクマネジメントなどを教え、国会議員の政策アドバイザーも務める。